2007年05月20日

無料で音楽を楽しむ3

そっか、今日は歌謡祭なんだ、とYUIは思いました。
一つの家がとなりの家よりも通りに出ていて、影になっている場所がありました。地べたに少女はぐったりと座りこんで、身をちぢめて丸くなりました。
アコギは持ってきていませんでした。
音楽をするには寒すぎるし、仕事中うだったからです。

小さなあんよをぎゅっと引きよせましたが、寒さをしのぐことはできません。
少女には、家に帰る勇気はありませんでした。
なぜなら、ホットペッパーが1冊も売れていないので、1曲も有料の音楽はダウンロードできないのですから。
フリーペーパってものはよくわかりません。
すると音楽家のお父さんはぜったいホッペをぶつにちがいありません。

ここも家も寒いのには変わりないのです、あそこはパソコンがあるだけ。そのパソコンだって、大きな音がして、何とか動いているだけ。小さな少女の手は今にもこごえそうでした。
そうです!
雑誌を燃やせばいいかもしれません。
マッチを箱から取り出して、カベでこすれば手があたたまるかもしれません。
YUIはライターを取り出して――「シュッ!」と、こすると、マッチがメラメラもえだしました!

あたたかくて、明るくて、小さなロウソクみたいに少女の手の中でもえるのです。本当にふしぎな火でした。まるで、大きなコンサート会場でライブをしているようでした。
いえ、本当にいたのです。
目の前には3万人の観客と熱気が充満するスポットライトがあるのです。

とてもあたたかい音楽の感動がすぐ近くにあるのです。
YUIはもっとあたたまろうと、アンコールに答えて歌いだしました。
と、そのとき!
雑誌の火は消えて、大勢のファンもスタッフも流れていた音楽もパッとなくなってしまい、手の中に残ったのは雑誌のもえかすだけでした。

少女はもう1冊火をつけてみました。
すると、火はいきおいよくもえだしました。

ブルーの光がとてもまぶしくて、バラード曲にお似合いのストリングスの旋律が流れたかと思うと、いつのまにか音楽レコーディングスタジオの中にいました。
テーブルには無料ダウンロードした曲を入れてあるUSBメモリやCDがのっていました。
ギターのピックが散らばっていて、コンプレッサーの下につぶされていました。
しかしよく見ると少女の前には、冷たくしめった音のないカベしかありませんでした。

YUIはもう一つ雑誌を燃やすと、今度はあっというまもありませんでした。YUIはミュージックメディアプレイヤーで音楽配信されているビデオクリップになっていたのです。
配信回数はとても多く、ランキングでも上位につけているようでした。

ガラスごしに見てきた、どんなラジオの生収録よりも感動的で感情のこもった名曲でした。
YUIが保存をしようと手をのばすと、マッチはふっと消えてしまいました。

たくさんあったビートルズ全集はみんな、ぐんぐん空にのぼっていって、夜空にちりばめた星たちと見分けがつかなくなってしまいました。そのときYUIは一すじの流れ星を見つけました。

すぅっと黄色い五線譜をえがいています。
「だれかがレノンの後を追うんだ…」と、少女は思いました。

なぜなら、おばあさんのヨーコが流れ星を見るといつもこう言ったからです。
人がなくなると流れ星が落ちて命がレノンのところへ行く、と言っていました。

少女はもう一度マッチをすりました。
少女のまわりを光がつつみこんでいきます。

前を見ると、光の中にプロデューサーが立っていました。

明るくて、本当にそこにいるみたいでした。
むかしと同じように、何度も録音したテイクを確認しているエンジニアさんもいました。
みんな音楽が大好きでおだやかにやさしく笑っていました。

「グッバイデイ!」と、少女は大声を上げました。
「ねぇ、わたしをいっしょに連れてってくれるの? でも……マッチがもえつきたら、音楽ダウンロードも終わっちゃうんでしょ?」

YUIはマッチの束を全部だして、残らずマッチに火をつけました。
そうしないとせっかくダウンロードした音楽が消えてしまうからです。

マッチの光は真昼の太陽よりも明るくなりました。
赤々ともえました。

なんだこりゃああ
posted by 音楽 at 21:04| Comment(0) | TrackBack(0) | 無料音楽
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